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【恋しくて①a】から先に☆
★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆手首に残る彼の手の温もり。
私の心臓は未だ ときめいていて
少しも酔ってはいないのに紅く上気した頬
(何を期待しているの?)染まった両頬を手で覆いながら鏡に顔を近づけてみた
化粧室の照明はフロアとは違って明るく
鏡は見たくない現実を映す。
(老けたなあ…)そっと薬指で目尻を持ち上げるように押さえても指を離せば
四十に近い肌は抵抗する事も無く素直に重力に従ってしまう…
化粧っ気の無い顔。素肌だけが自慢だったのに
いつの間にか出来てしまってるシミが肌の老化を物語る。
(眉の手入れをしたのはイツだったっけ?髪もボサボサだわ…)ヘアクリップを外し、髪をまとめ直そうとした時
ふいにバッグの中の携帯が震えメロディがメールの着信を知らせる。
(こんな時間に誰から?)携帯を取り出し確認をすると懐かしい名前が表示された。
(春樹さん!?)『まだ起きてる?今、電話して良いかな?』もしも、このメールを妹の家で受け取っていたなら私は即座に
『うん、いいよ』 と返信していたに違いない。
だけど今は…
『ごめんね、今日は…』 と返信を打っている途中で"彼"専用の着信音が鳴り始めた。
(どうしよう…)頻繁にかかってくる相手なら後日
『寝ていたの』で済ませられる。
けれども春樹さんから掛かってくることは年に数回しか無く
私からは掛けることが出来ない相手…いや違う…そうじゃない
過ぎ去った遠い日に戻ってしまう自分が怖くて掛けられないだけ
携帯を握り締めて今にも泣き出しそうな顔をした女が鏡の中にいる
どちらに進むのも怖くて立ち止まってしまった迷い子のように見えた。
鳴り続ける着信メロディ…思い出の詰まった曲
今、電話に出なければ二度と彼の声が聞けない気がした。
そして、ほんの一瞬、それでも構わないと思った。
だけど…
私には鳴り続ける着信メロディを無視することは出来なかった。
鏡に背を向けて携帯を耳に押し当てた。
「はい」「ごめんね、起こしちゃった?」懐かしい声が聞こえてくる
「ううん、起きてたよ」「久しぶりだね、元気?」「うん。まだ生きてるよ」「寝る前に何となくユキの声が聞きたくなって…」「何か有ったの?」「いや、何もないよ。声が聞きたくなっただけさ」「そう?子守唄でも歌ってあげたいけど今日はダメだわ」「どうして?聴きたいなあ、ユキの子守唄」「ごめんね、実は今…友達と飲みに来てるのよ」嘘では無い…嘘では無いけれど胸の奥がチリチリと痛んだ。
「ああ、それでいつもより出るのが遅かったんだね」「うん…」「友だち待たせちゃ悪いね、仕方ない、子守唄は諦めるよ」「ごめんね。次はフルコーラス歌ってあげるから」「楽しみにしてるよ。それじゃあ…また」「うん、またね」「あ…」「ん?どうしたの?」「友達って…男?」思いがけない彼の言葉に鼓動が激しくなる
私は悟られないように努めて明るく彼の問いに答えた。
「まさか~可愛い女の子よ」「わぉ!今度、紹介して」「ダメ、春樹さんには絶対紹介しない」「それって、もしかしてヤキモチ?」「ちがう!」「はははっ相変わらず素直じゃないところが可愛いね」「…もう!何言ってるのよ」「ユキ…」「なあに?」僅かな沈黙のあと呟くような彼の声が聞こえた。
「俺は今でも…」「えっ…?」「ごめん、今の言葉…忘れて。おやすみ」そう言うと彼は私からの
「おやすみ」も待たずに切ってしまった。
「もしもし?春樹さん?」携帯を持つ手が震えている
(今のは何?何なの?)『俺は今でも…』 その後に続く言葉なんて一つしか無い…。
「なぜ?どうして…今夜なの?」鏡に映る自分に向かって呟いてみた。
(あなたはどうしたいの?)鏡の中の私が問いかけてくる
「私は…」★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆=★=☆To be continued.( ´艸`)ムフッ♪